「断熱」を考えるには「熱」の性質を知っておけば自由自在。


「熱」について多角的に考えてみると
断熱・建築・床暖房の働き・効率・経済性・健康の側面から、
徹底して知りたい方への少々マニアックなページになっています。
  


<上記の「壁の断面図」の説明>
※熱は温度の高いほうから低い方へと移動するため、屋内から屋外へと
移動する場合とその逆があります。同時に、建物構造により、図のような
壁の中の構造によっては、より複雑な移動をおこないます。
下表は@からGまでの各ポイントの説明です。経験的には分かり切った
話なのですが、熱の動きをいわばスローモーションでつかまえると、「断
熱」などの熱処理において、簡単に工夫ができるようになるはずです。
用語としては、「輻射熱」も「赤外線」も「電磁波」もまったく同じ意味で使
っています。これらは「熱」が空中を移動する時の姿です。
「熱」をどう処置すれば、簡便・経済的で建物にも都合が良く、床暖房など
冷暖房効果と共に維持費を低減できるかを検討します。
結論的には、「断熱材」は@100mmがいい、と、いえそうです。その建築
コストの上昇分は、お客様は一年で簡単に取り戻せます。「断熱」は暖冷
房の維持費を大きく左右するからです。

@ @は屋外からか屋内側からのの移動。この状態の熱は空気中を輻射熱=電磁波の形で移動しています
A Aは空気が帯びているの動き(対流)を表しています
B Bはサイディングの断面のつもりですが、それが屋外の熱(主に太陽光=電磁波)を受けて温められ、の一部は屋内側へと移動し、もう一方は再び屋外へ電磁波として飛んでゆきます。サイディングという物体にたまったは、それより温度の低い方へと移動するわけですが、蓄熱されると外気より温度が上がり、一部はまた外へと向かいます。
冬の夜間を想定すると、外部からもらえる
は少なく、の移動はもっぱら屋内側から屋外側へとすすみます。
C Cは壁の中で、この絵には描かれていませんが、これが在来構造である場合は特に、建築屋さんならだれしも承知の通り、床下と壁中と天井裏とは空間的につながっており、さらに外気とも接触があるため、常時空気の対流がここで起こりうるわけです。
たいていの場合、この「対流」を利用するか否かで意見が分かれます。床下の通気口もそうですが、その必要性の有無は、冬の屋外の湿度は低いにしても、閉め切った屋内で発生する湿気をどう処理するかで、結論が分かれると思われます。
湿った空気は、温度の低い空間や物へと移動・接近していくわけですが、特に屋内の空気と壁の中の空気とが接する建物構造の場合、壁中での冷たい側=サイディングの内側での「結露」は避けられないと思われます。ですからこの構造の場合には、床下や壁内の通気は必須となっているわけです。
一方、最近の傾向である屋内と屋外の空気を遮断する「高断熱・高気密」の場合、神経を使うのはやはりここだと思われます。
屋外から来る
は出来るだけ屋外に返し、屋内のは屋内で人工的に処理するという発想になります。計画換気も必要となります。
D 絵のような50mm程度の厚みの断熱材を使用する場合、理想をいえば、断熱材は図中のボードの裏側に密着させることが必須と思われます。
この絵ではわざと隙間を書き込んでいますが、一般的な断熱材の施工に当たり、ですがそれを手前側のボードに密着させるようにするのは、かなり厄介なことと思われます。が、ここに隙間が生じた場合、必ず対流が生じます。「隙間」という空気層は断熱効果を持ちますが、その隙間が天井や床下、あるいは屋内とも隙間としてつながっている場合、空気の動きは複雑になってしまいます。
特にアルミ箔(電導体)を用いた断熱マットは、壁から来る
輻射=電磁波となっていて跳ね返るので、断熱効果がよく分からなくなります。隙間を流れる空気とボードとの接点でを奪われ、断熱効果が半減すると思われます。
これを防ぐには、単純には100mmの断熱材を使うことで、密着させやすくなります。ここが全面的に密着すると、断熱効果は飛躍的に向上します。
E 特に床暖房にとって、ボードは都合の良い蓄熱体になります。ここにが留まり、蓄熱されれば、そこからまた屋内に向かって輻射熱が放射されることになります。
空調機器による暖房はどうかといえば、空調機器は文字通り「空気を温める」ものなので、原理がまるでちがいます。暖かい空気は物が持っている
をそのまま保温してくれる、という保温効果が期待できます。が、ボードを温めるには時間がかかります。この場合は空気と「ボードという物体」の接点で伝熱が起こりますが、「物」と「物」とが触れておこる伝熱よりかなり伝熱速度が遅くなります。
F これは外から来る温度変化の際の空気対流を示しています。ボード表面に触れている空気は、ボードの表面温度との差で冷やされるか温められるかします。それを示しています。
G もしも、外から来る低温度がこのGの輻射だとしますと、これはいわば「冷輻射」となり、人間の体表面から発する体温を吸収する形で、ひやりとした感じをもたらします。部屋の空気を冷やす速度より、この「冷輻射」効果のほうが早くあらわれます。


このページは「熱」がテーマです。
(1)熱の移動の仕方  (2)温度勾配
(3)熱のコントロール (4)固体・気体・膨張
(1)暖房に応用する (2)部屋の広さと熱の量
(3)心地よさとは
(1)電磁波の分類と自然光 (2)「体温」と暖房
体温をどのように維持するか。身体の側から説明。
                    (各項目はクリックできます)
1.「熱」の物理的な特性

「熱」
はそれ自体でも運動するエネルギーですが、実際にはその周囲のあらゆる物質、あるいはエネルギーとの関係で、運動の方向性を持ち、あるいは「熱い」「ぬるい」などの状態的な性質の一端を垣間見せます。魔法瓶の中でお湯を冷めないようにするのも、あるいは車のエンジンが帯びる高温度を速やかに冷却する必要も、その「熱」の性質を理解して、拡散を防いだり、あるいは逆に効率的に発散させようとしています。
「太陽」は天然の溶鉱炉とか、あるいは核融合炉などといわれますが、それは
「熱」が生じる原因についていっていることになります。
そこ(太陽)から発せられる「光」が含むさまざまな「電磁波」は、原因であり同時に結果でもある、といえます。話は少しおおげさになりますが、その特性を手段とし、
「暖房」という目的に利用するために「コントロール」するのが、「建築」や「床暖房」(「冷房」)の役割の一つだといえます。



(1)熱の移動の仕方

「熱」
をコントロールするためには、その性質(状態)を2態に分け、了解しておく必要があります。
現状、これはコントロールできませんが、地殻変動などでのマグマの対流のように、
「熱」は常に運動しています。一つは「物の中に留まった状態」で、しかし岩を溶解して液状化してしまうとか、あるいはじっとしていずに、地表などのより温度の低い方向へと「熱」は移動(伝熱)しようとします。移動した先にすでに「物」がなく、「空間」しかなければ、その表面からは「電磁波(赤外線)」となって大気圏,へ、さらに宇宙空間へと「熱」は姿を変えて放散します。その熱量が小さかろうと大きかろうと、性質はまったく同じはずです。物体と環境温度とに「差」があれば、熱は移動しようとします。

a.物の中にとどまった状態の熱(伝熱で温度の高いほうから低い方へと移動)
b.空間を高速(実際に光速)で移動する状態(輻射熱とか赤外線・電磁波と呼ばれる状態)

地球の地殻における恒常的な圧力(重力)による
「熱」の生成とともに、地表には、やはり強烈な重力による核融合で生成する「熱」がそれとは逆の方向、太陽からやって来ます。
この両方向から来る「熱」のバランスが気候を左右します。地熱は安定的で、一方、太陽という恒星を周回する惑星である地球の位置により、太陽から来る「熱」は変動的と感じられます。火山活動などが間欠的なため、地熱も同様に変動すると思えそうですが、地球の質量と成分とが不変である限り、そこで「熱」を生成する条件はほぼ一定、と想像できます。変動しうるのは比較的に地表近くであり、マグマという流動性の固体や火山ガスが閉ざされた状態だと圧力が増し、余剰の「熱」が生成されはします。膨張の際の他へ与える力は、気体、液体、固体の順で、圧倒的なものとなってゆきます。マグマの層よりもより深部の物体が不安定であれば、地球は丸ごと爆発する可能性を持つはずです。が、地球の生成期から順に考えれば、気体や液体ほど、その比重と「熱」との影響を受け易く、対流を起こして、おのずと中心部(深部)から「安定」な順に、地殻が形成されたのは想像に難くありません。日常で知られる単純な現象です。鉄やニッケルが地球の地殻を占めるといわれるのも、それを明かしています(つまり地球の核はステンレスだ、と思えばよいわけです。ステンレスは鉄とニッケルの合金です。月の核も同様だといわれています)。
これらの、いってみれば安定な状態を不安定にする要素はまず、なにかしらの「気体」であり、次に「水」だといってもよいはずです。
太陽から来る
「熱」は、「光」と総称される電磁波の集合体の一部をなすもので、「赤外線」と呼ばれています。この「赤外線」という呼称は、同じ光の成分のうち、「可視光線」の周波数帯の一番大きい側が「赤」であり、そのすぐ外側だから「赤外線」と呼ばれます。反対に、「可視光線」の帯域の周波数の一番小さい側が「青(紫)」であり、それでそれよりすぐ外側の帯域を「紫外線」と呼びます。この電磁波は、周波数が小さいほど、「生物」にとって危険だといわれています。

このように、「熱」の「二態」とは、物の中に熱が留まっている状態と、「電磁波」に姿を変え、熱が空間を移動する状態の二つを指しています。

(2)温度勾配(傾斜)

重力のある地上では、坂道に置いたボールは高いほうから低いほうへと転がります。これに例えて、
「熱」の持つ性質を示すために、「温度勾配」と呼ぶことがあります。これは、「熱」は高い方から低いほうへ移動する、という単純な性質をいっています。物の中にある「熱」は伝熱作用で温度の低い側へと移動し、温度分布として平均化しようとします。100℃のお湯と同量の50℃のお湯を混ぜると75℃になる、というわけです。この運動は一方向のみに可能で、それを再び「100℃のお湯と同量の50℃のお湯」に戻すことはできません。不可逆的だ、ということです。
また、伝熱作用により物の中で均質化された熱が逃げ場を失うと、空中に向けて放熱します。この時
「熱」は「電磁波」(赤外線)となって飛散します。その電磁波が最寄の別の物(しかも絶縁体)にぶつかると、それを透過しようとし、その過程で再び「熱」に化けます。「熱」はそのようにして傾斜を低いほうへと転がっていく、というイメージが大事です。

(3)熱のコントロール

「熱」
をコントロールする、とは、その温度と分布の制御、そして時間割を与える、ということです。その要素のうち一つでも曖昧にしておくと、「不快さ」が表れる場合があります。といって、「快適さ」にも個人差があり、いずれの場合も幅をもって考えるべきなのはいうまでもありません。
「熱」
が邪魔なのか、あるいはもっと欲しいのか、何度くらい加減すれば良いのか、それを現実の条件(現場)によって設定する必要があります。「熱」はじっとしていません。色々な形で運動しつづけています。ですから、それをコントロールするには、建物構造による性質(断熱性能や採光範囲)を見極め、過剰か不足か、どの程度の熱量を連続的に加減すべきか、だいたいの目安を持っていなければなりません。
よく知られているのは、東京ガスによる暖房(冷房)負荷基準です。これは従来の木造建物などにしか適用できませんが、例えば、建物の1階にある部屋なら120kcal/h(約0.14kw)/u、2階なら130kcal/h(約0.15kw)/uといった数値を暖房の目安としています。
ひところの建物構造であれば、これを目安として差し支えありませんが、ここ数年来、建物の断熱性能はさらによくなっており、この負荷を用いて暖房設備を設計すると、ムダがでることがあります。現在、負荷が100kcal/hを下回る建物は、いろいろででいます。
同時に、特に床暖房設備の場合、何がしかの燃料により作り出した熱を経済性(省エネ)を基準に考えると、ともすれば宇宙まで逃げようとする
「熱」を極力、部屋内に留める建物側の工夫と、暖房システム自体の構造、そして燃料自体も考慮しなくてはなりません。その三位一体の仕組みを作り出せば、理想的な屋内環境を生み出すことができます。快適で、維持費も安い、といった建物です。
現在、建物構造によっては、本来なら一部屋分の燃料費で、すべての部屋の暖房費をまかなえる、といった建物はできています。今後さらに、異常気象なのかどうか前回の冬のような「寒波」や、あるいは今夏の熱暑で耐えきれずに使う冷暖房光熱費を大幅に節減できる建物構造の工夫は、主流になりつつあります。仕組みによっては、そのせいで建築費がかさむということもありません。

「熱」
に係わる条件を多角的に考慮すれば、これは可能です。

(4)固体・気体・膨張 

「固体」も「気体」も、「熱」によって膨張や収縮をする性質はよく知られています。
「熱」
の運動はめまぐるしいもので、おのずと、厳密にはすべての「物」は膨張したり収縮したりを繰り返していることになります。地球上のすべての物質は運動しています。それにさらに「熱」を与えると、気体は特に体積的な変化が大きく、固体はその変化が微妙です。それでも気体には温度を与えにくく、物体には温度を与え(加熱)やすい、ということがあります。
同じ
「熱」を与えたこの二つの物質の見掛け上の変化は、他の物へ与える影響として比べると、気体より固体の膨張のほうが他へ大きな力を加える、といえます。その固体の種類によってまた変化(膨張率)は違いますが、「熱」を帯びた固体はその変化において他の固体に思わない影響を与えます。
このことから、特に床暖房の場合、床表面の温度は小さいほど良い、といえます。しかもできれば、一定範囲の上下変化に留められるよう、温度管理は一定の範囲で継続的におこなうのがよい、ということになります。このことは同時に、「快適性」にも直結した問題となります。
いってみれば、家の中から温度的な季節変動を可能なだけ排除し、生活上の潤いとしての季節感は屋外に求める、というのが、理想にもなります。
また、経済性(イニシャルコスト・ライニングコスト)の面でいえば、「部屋を暖める」には大きな熱量(コスト)が必要です。それに対し、スポット的に人体を直接温めれば、それより小さな熱量(コスト)で済むはずです。暖房(冷房)は空間(空気)に対して考えるのではなく、人を含む「物」の性質を理解して効率化を図ることが大切です。
暖房も冷房も、気体や固体に大きな膨張(収縮)を招く仕組みは、そのまま大きなロスを生むことを意味します。
「温度」ではない、必要総熱量(負荷)の問題だ、と覚えておくべきです。このことは、次章で説明しています。


     
2.感覚的な意味での「熱」

寒暖計の示す温度と実感的な温度には誤差がある、と、われわれは時々感じています。
そのことを、天気予報などでは「体感温度」と呼んでいるのを耳にします。「気温は5℃でしたが北風が強く、実際はそれより寒かった」などといいます。
気象学などのためのデータ用とする基準は、温度測定を同じ条件下でおこなわなければ比較上で統計的価値を失うため、いつも風の直接当たりにくい、しかも日陰の一定地点で計測するのが普通です。これは同時に外気(空気)温度を計っていることになります。
ところで人間は夏でも、30℃を超える直射日光の下にもゆくし、日陰にもたむろし、あるいは屋内の冷房が効いた部屋にじっとしていることもあります。「暑い」「ほどほど」「寒かった」などなど、同じ気温の日にそれぞれ別の感想を述べることはあり得ます。しかもそれぞれの印象は正しいわけです。
実のところ、百葉箱の中で計測される温度は、しかしどちらかといえば「感覚的」な温度に近いといえます。なぜなら、空気温度は、熱エネルギーの二次的な情報だからで、絶対基準にはなりません。華氏温度にしても同様です。氷ができる温度を基準にしても、絶対零度を基準にしても、これらは皮膚感覚的な計測方法だといえます。冬、同じ0℃の日の朝に、氷が張ったり張らなかったりするのは、そこに明瞭な誤差が介在する証しです。
もしも、温度計を百葉箱から出し、直射日光に当てたなら、温度はもっと高く(低く)なるはずです。これはさらに実感的な温度になるはずです。なぜなら太陽光線そのものの持つエネルギーや、設置した温度計周辺の環境温度のすべて(相殺を含む熱の総量)を反映するからです。この方法で計測した温度は、きわめて地域限定的なものになります。時には、任意の場所に立った一人の人間が浴びている個人的な範囲の熱量、というところまで限定的になります。
実のところ「床暖房屋」は、実際に施工する現場に立ってみて、皮膚感覚で計っている、というような原始的な方法を取る場合があります。「必要総熱量(負荷)」は、しかし、確かに皮膚で計るものなのです。そこにある自然の熱量(赤外線)の多少を、計っているわけです。それにしても「皮膚感覚」とは、危うい現場調査ではあります。が、東京都下でも八王子や青梅市など、数百メートルほどの海抜を持つ山に接している宅地は、要注意、と、皮膚は訴えるのですが…。
ここでは、「冷輻射」と呼ばれる、マイナスの負荷そのものが確かに、皮膚感覚で感じられる場合があります。外気温より低い山の岩盤が、あたりの熱を吸い取っているからです。それが体温をも連続的に奪っています。これは相対的な「質量」の差により、「岩盤と肉体」双方の熱容量の差が極めて大きく、人間の体温は岩盤よりも温かいために、強烈な熱の移動を引き起こすからだ、といえます。
この場合を「冷輻射」とよび、いわば冷房効果を果たしていることになります。
こうした「熱の移動」は、電磁波の形で起こります。そのとき、「空気温度」は実のところ、目安にすぎません。「皮膚」は冷気を感じるワケですが、この点が実に「感覚的」で、しかも錯覚だといってもよいくらいです。「冷気」はあるのですが、これもまた付近の岩盤によって冷却された空気があるため、それで涼しいと思わずにはいられません。確かに、頬に触れる冷気は「ひんやり」しますが、「気体」である空気の伝熱効果は、岩盤という「物体」が吸い寄せる物理的な吸熱効果の比ではありません。
この温度差の関係が逆だと、「輻射熱」により、人間は暖められます。暖房効果です。
人間の皮膚はかなり正確な「センサー」といえるでしょうが、「冷える」あるいは「暖かい」という「実感」は、物理現象としての理屈など意に介していない、といえます。「冷たい」から冷たい、「暖かい」から暖かい、と、結果を「実感」として判断しているだけです。
実際は、それらの冷暖房効果は、ある環境下で物体が孕む正負の「熱容量」、「空気温度」、「温度差」によって、冷暖房効果の程度が決まります。言い換えると、「輻射効果」「伝熱効果」「温度差」が冷暖房効果を左右するので、その三つが判断の決め手となります。
冷暖房効果においては、「空気温度」はいわば二次情報です。部屋の「寒暖計」は目安なのです。

(1)暖房に応用する際のコツ

先に説明した「皮膚感覚的」な温度の誤差について、それを基準にしにくいのは明らかです。
又、同時に、東京ガスが目安とするような負荷基準も、実際にはあまり役に立ちません。これは地域と建物構造において限定的な目安にすぎないからです。
実際に家を建てる際に注意すべき諸要素としては、ならばどこに留意すべきかといえば、これは簡単で、すでに利用されている「断熱材」と「気密シート」などの利用です。ただし、ここには書き切れませんが、その利用を「熱」の動きを予測しておこなわなくてはなりません。「熱」がどのような逃げるか、あるいは侵入してくるかについて、予測が必要です。壁の中にただ断熱材を入れるのではなく、どうせ入れるなら効果的に入れたほうが良いのは明白です。
断熱効果の良い建物では、「エアコン」を利用しても効率が良いのは明らかです。ただし、「暖房」にしろ「冷房」にしろ、「快適さ」という観点からは、「冷輻射」あるいは「輻射熱」の利用が、圧倒的に勝ります。テレビの宣伝にもあるように、「空調機器」は、「温度分布」や「空気対流」の不快さを極力減らそうと努力しています。これは言い換えるなら、「冷輻射」「輻射熱」の効果に近付こうとしている、ということです。究極の目標が、これら「冷輻射」「輻射熱」の効果と近似したものとなっています。しかしこれは、言い切ってしまえば物理的に不可能です。「空気」を媒体とすることは不経済でもあります。「冷暖房」における「膨張」や「収縮」の激しい「気体」の管理は、最終的にはとても困難なものとなります。
さらに、特に住宅においては、キメの細かい「快適性」と「経済性」の管理がネックとなります。これは同時に、「省エネ」や「エコロジー」の問題とも絡んできます。

 
 * 一般的な床暖機材・部材・道具類の写真資料

(2)部屋の広さと熱の量

いわゆる「暖冷房負荷」という基準値(目安)をどこに置くかは、建物の性能によって大きく異なってきます。
そこで一般的な物差しでいえば、「高断熱・高気密住宅」を標榜している建物の場合、1uあたりで100kcal/h以下となります。ただしこれも1uあたりの、同時に1時間あたりの必要熱量(カロリー)となり、これをどのように応用するかは、さらに計算が必要になります。必要な蓄熱の総量と、それに達するまでの時間を
結論から言えば、「断熱性能」に自信のある建物では、一日の「暖房」のために、一日中室内に熱を送り込む必要はありません。ムダに供給しない、ムダに逃がさない、という観点から、「蓄熱式」などで「熱」を屋内側に留め、徐々に放熱する仕組みを採用すればよいわけです。
その結果、24時間暖房のために、5時間だけ「熱」を送り込む、といった管理ができるようになります。これを寒冷地など地域性を考慮して加減することになります。

(3)心地よさとは

これは(1)と(2)での話とからんできますが、「健康的」なのは、「暑さ寒さも彼岸まで」というように、春や秋のある日のように「暑くも寒くもない状態」がもっとも健康的だと言えます。つまり身体に対して余計な負担をかけない状態と言うことになります。生理的な代謝活動において余計な負荷をかけない、といえばよいでしょうか。
但し、この状態が「快適」とはいえ、実のところ「暑さ」「寒さ」という変化によって身体(代謝活動)が鍛えられるという側面を考えると、手放しでは喜べない、ともいえそうです。ですから、鍛えるなら屋外で、ということになります。
ここではあくまで、屋内での住環境整備の一環として、「快適性」を追求しています。平静な状態での「代謝活動」が一定のリズムで、温度的なストレスの少ない状態でおこなわれることを目指す、ということです。
ですから、「暖かい」「涼しい」といった、暖冷房効果の初期的な「快感」とは少し異なります。「床暖房」でもその状態は簡単に作れます。それは送り込む熱量を増やせばよいだけの話だからです。
それよりも、「経済性」と「健康」とがどうしても主要テーマとなる昨今、この点を考慮することは商売上でも重要なのは明らかです。
おまけに「快適性」は、人間が抱く観念によっても、その性質というのか「感度」が微妙に変化するという性質があります。ある時は汗をかくことが快感になり、その後の冷たいビールも快感であるという、はなはだゼイタクな傾向も持っています。それも必要であるとして、さらに日常的なつつがない「平穏さ」を価値とする側面も、人は持っています。
「床暖房」は、そうした必要な変化の合間に持続する「平穏さ」のイメージを、目標とします。ここが分かりにくいところでもあり、その効果は体験してみなければ分かりません。
あまり寒暖を感じさせない「平穏な」心地よさ、それが床暖房の当面の目標ということになります。




3.人工的な波長と自然の波長

(1)電磁波の分類と自然光
「電磁波」と聞いただけで身の毛がよだつ…。これは、SF映画や携帯電話、電子レンジなどの「マイクロ波」の持つ危険性が喧伝された結果、その「怖さ」だけが波及した心理的アレルギーといえます。
しかし、快適で「暖か」な電磁波もあります。地球上の動植物はほとんどすべて、自然界におけるあらゆる波長の「電磁波」にさらされています。危険性は、人工的な波長にほぼ集中しています。
下の分類表をご覧ください。

<電磁波の種類と利用例>
※単位 1000ヘルツは1Kヘルツ、1000Kヘルツは1M(メガ)ヘルツ、1000Mヘルツは1G(ギガ)ヘルツ

名  称 周 波 数・波長 利   用   例   /   区   分
超々長波 0.03〜3ヘルツ
3〜3000ヘルツ
家庭電気製品や高圧線からでる
超長波 3〜30Kヘルツ 電磁調理器
長波 30〜300Kヘルツ 気象通報
中波 3〜30Mヘルツ ラジオ・航空機無線
短波 30〜300Mヘルツ 短波放送・国際放送・電気通信事業・警察無線・
アマチュア無線
超短波 300〜3000Mヘルツ テレビ放送・FM放送・ポケットベル・アマチュア無線
極超短波
※危険帯域
3〜30Gヘルツ 携帯電話・タクシー無線・テレビ放送・列車講習電話・自動車電話・
電子レンジ

※水の分子を運動させ作用するので危険視される。
  ただし製品・用途によってエネルギー量は異な
  るので危険度はちがう。
 「使い方」によって危険を生じる場合があるということ。
センチ波 3〜30Gヘルツ 電気通信事業用マイクロウェーブ中継・航空・船舶レーダー・衛星放送・
ミリ波 30〜300Gヘルツ 各種レーダー
サブミリ波
赤外線 赤色光0.74μm〜波長1000μmまでの領域に相当する電磁波。
生命体をも含め、熱を帯びている物体から発散される
可視光線
紫外線 ※危険帯域:紫外線はABCランクに分けられ、特に
  B・Cタイプが危険視される。
  皮膚表面の色素細胞を破壊する恐れがあり、
  皮膚ガンの原因の一つとされる。言いかえると
  DNAに内包される遺伝情報の配列を損傷させ、
  生命細胞の無限増殖(ガン)を招くことになる>
エックス線 医療機器 ※危険帯域:紫外線よりも分子レベルで
        生命細胞に破壊的な影響を与える。

電磁波の測定単位について
電磁波を測定する場合の単位は電磁波の種類(低周波か高周波か)によって違ってきます。それは周波数の違いにより電磁波の性質が違ってくるので、ひとつの単位で比較することができないからです。低周波の場合はひとつの波(波長)が大きいので電場磁場を分けて測定しますが、高周波の場合は電場と磁場が一体化しているので電力密度(あるいは磁束密度)という単位で表します。

周波数
波長
測定単位
低周波
送電線・電化製品
50Hz・60Hz
5000〜6000Km

磁場(ガウスorテスラ)と電場(V/cm)

マイクロ波
携帯電話・電子レンジ
1.5GHz
20cm
電力密度(mW/cm2

磁場の単位(低周波)
ガウスというのは磁気の単位として耳にしたことがある方も多いと思います。ガウスというのは磁束密度の国際単位で、1平方センチメートルあたりの磁力線の数を指します。平成9年10月1日から磁束密度の国際単位はガウスからテスラに変更されました。ちなみ地球上では平均50マイクロテスラの磁場があって、極地(北極や南極)に近づくほど高くなっています。N極とS極は動かないので静磁場と言います。

1G(ガウス)=0.1mT(ミリテスラ)
1万G(ガウス)=1T(テスラ)


電場の単位(低周波)
下敷きをこすって頭に近づけると髪の毛が立ちます。これは下敷きに電気が集まり髪の毛が吸い寄せられたのであり、これが電場です。電場の強さを表す単位は「キロボルト/メートル(kV/m)」や「ボルト/センチメートル(V/cm)」を用います。低周波の電磁波問題は磁場のガウスが基準となることが多いのですが、電場の人体への影響も懸念されています。
1kV/m=10V/cm

電力密度の単位(マイクロ波)
携帯電話や電子レンジのマイクロ波の単位についていは、電場と磁場が絡み合って状態で出てきます。1平方センチメートルの面積に何ミリワットの熱量が通過したかで考えます。
電磁波の伝わる方向に対して垂直な単位断面積当たりの通過電力(単位:mW/cm2等)です。


※1000G=1T(テラ)、1n(ナノ)=1/100万mm、1=1000μ(マイクロ)
1μ=1000n(ナノ)


(2)「体温」と暖房(冷房)

「体温」と「床暖房」の関係

輻射熱=遠赤外線による暖房負荷(効果)の考え方
「体温」という人が体内で作り出す「熱」は主に筋肉・臓器により作られています
その比率

骨 格 筋 59%
呼 吸 筋 9%
肝   臓 22%
心   臓 4%
腎   臓 4%
そ の 他 2%


○ 人は安静時に体重1kgあたり約1Kcal/hの熱を作ります(基礎代謝)。
○ 栄養分(糖・蛋白質・脂肪)が代謝されてエネルギーが発生。このエネルギーは機械的・電気的・化学的エネルギーに約30%ほど使われ、残りは「熱」として放散されます。

 この前提で考えると、体重60kgの人は1時間に1kcal×60×0.7≒42(kcal/h)の「熱」を放散していることになります。これをW(ワット)に単位変換すると、約49W/hの熱を体表面から放散できている状態が平静状態といえ、これは言い換えると、「暑い」「寒い」を意識しない快適な状態といえます。
 ただし生理学では、快適なのは平均値として「42〜43W/h」だといいます。ここでの誤差は、体重が60kgであっても、身長との兼ね合いとともに体表面積(放熱面積)という個人差が、熱の放散量を変化させると考えられるので、この一般的な生理学の統計値「42〜43W/h」を「快適指数」とするのが妥当と思われます。

 これらのことから展開して蓄熱量や床表面温度の目標値が割り出されますが、その実験での結果は上の概説にほぼ合致します。床表面での熱量の目安は90kcal/u・hで、65uの床面積では5,850kcal/h=6.8kW/hが暖房負荷の目安となります。
※ちなみに温水マット方式(東ガスTESなど)では120kcal/h.u
 体温放散は赤外線によりおこなわれるので、それに対して仮に43W/hを維持するには、それと同量の「43W」の赤外線で人を照射する熱環境を作り出せばよいことになります。
 この赤外線(厳密には遠赤外線※)の性質は、物に当たってから熱に化けますが、同様に体表面に当たってから熱になります。そのようにして人を暖めることになります。
 熱は温度の低い方(温度勾配)へと逃げるので、人体表面から出る熱と環境の与える熱量を同期させると、熱の移動はおこらず、これを平静状態(快適)と考えます。外出先から帰った人の体温が少し落ちていて寒気がする場合には、室内の赤外線は勾配として人に傾き、暖房効果を与えます。逆に、家事労働等による体温上昇時には、体温放散を妨げません。この熱移動のバランスが床暖房の特徴です。
 一方、空調による暖かい空気は、その保温効果により人を包むため、体温低下の人にはしばらく暖かく感じられるわけですが、その後の体温上昇により「暖かすぎる」という保温過剰な状態を作り出してしまい、家事労働をしている人にも同様な不快感を与えます。それに加えてさらに対流による上下の温度差が感じられるようになり、「不快感」は増長されます。それを補正して数値的にはっきりした「快適指数(42〜43Wの体温放散)」を目指し、次にそれを維持すべく適度な熱環境を作り出すのは、空気調和方式では原理的に至難のワザとなります。
 人体よりの適正な熱の放散を維持することは「快適性=健康」を意味し、そのためには、人体表面に対してより直接的な熱エネルギーを与えてバランスをとることが有効で、これを蓄熱式床暖房は実現します。
(「床暖房だから足元が暖かい」という表現は遠赤外線効果の消極的表現です)
 ここで最大限にその「床暖房効果=遠赤外線効果」を発揮させるには、建物の「断熱性能※」への留意と、「快適指数」を維持できる床下での蓄熱量のコントロールが必要になります。
「快適=健康」という等式の維持は、お年寄りなど代謝活動の低下(体温低下)した方への健康管理にも有効です。無風で埃の立たない蓄熱式床暖房は全面床暖房であり、家の中でのヒートショックを大幅に軽減し、特定箇所に湿気を集めることもなく、押入れやウォークインクロゼットなどの衣類も湿気ることがなくなります。これらは「快適さ※」というものが暖房効果ばかりではなく、「清潔感」という心象イメージの良さから生理的心地良さに反映され、真の快適さへとつながります。
 快適・健康・経済的・清潔・安全・省エネ、これらの条件をクリアーするのが蓄熱式床暖房です。

※快 適 さ…「不快指数」が温度と湿度の関係で快適性について表現する方法なのに対し、「快適指数」は生理学的指標をモデルとして使っています。床・壁・天井などが帯びる温度を目安とし、それらが近似していることがポイントです。湿度は一定として考え、「物」に溜まる温度分布が主な要素となり、空気温度は二次情報となります。
 (空調機による暖房時の湿度低下は空気の膨張による湿度密度の低下によります)
※遠赤外線…赤外線は「近・中・遠」と分類されていますが、周波数的に人体に熱的効果をもたらしているのはこの中の「遠赤外線」です。この周波数帯は8〜13μmで、健康器具などでよく「遠赤外線効果」と喧伝されていますが、決して特別なものではありません。太陽光にも自然に含まれているとともに、熱を帯びた物体から熱が他へ逃げていく場合、多くはこの「遠赤外線」の形で飛散します。
※ 断熱性能…一般的に床暖房設計上の負荷は、20年以前から東京ガスなどガス会社による実験値により、120kcal/u(木造・一階)〜130kcal/h(木造・二階)を目安としました。しかし最近では建物の断熱性能が向上し、RC構造でも一般住宅は内断熱・外断熱といった具合に保温を重視する傾向が顕著です。その結果、暖冷房は断熱性能で大きく左右されることが再認識されてきました。暖冷房効果も維持費も断熱・気密性能次第です。
 いまではこの性能確保はお施主様からの強い要望として表われ、建築条件になってきています。暖房負荷は100kcal/u前後で良く、さらに「高断熱・高気密」とはっきり表示された建物では80〜90kcal/hでも暖房可能となっています。
 これらを踏まえ、蓄熱式では熱源機自体の出力も従来の半分程度の能力で対応可能となっており、維持費も半減しています。
これに加え、近年「オール電化」を希望するお施主様も増えつつあり、従来なら能力的に敬遠していたヒートポンプ熱源機も採用可能となっています。特に即暖性を要しない蓄熱式の場合、時間をかけて蓄熱すればよいのでこの種の熱源機使用にも適しています。